メルケル首相の新年へ向けてのご挨拶 (2020年12月31日) 意訳:六草いちか

メルケル首相の新年へ向けてのご挨拶 (2020年12月31日)を意訳いたしました。よろしければご参考になさってください。

市民の皆さま
どのような一年をお過ごしになられたでしょうか。

2020年は、世界が想像したこともない事態に見舞われることになりました。
これまで未知であったウイルスが私たちの身体と日常を侵していきました。
私たちの、人としての最も大切なことがら……人に会ったり、抱擁したり、会話をしたり、祝ったり……こういったことが問題となっていきました。
ウイルスが、ごく当たり前の行動や所作をリスクにし、これまでにやったことがないような防御処置を当たり前のことに置き換えてしまいました。

2020年というこの年は、学びの年となりました。
私たちはこの年の始まりにはウイルスに対して反応すべきでした。けれども確かな知識や情報を持ち合わせていませんでした。
私たちはとりあえず、おそらくこれが正しいであろうと思える事柄に望みを託すという形で決断していかなければなりませんでした。

新型コロナウイルスによるパンデミックは、政治的に、社会的、そして経済的な面においても、今世紀の課題であり、それは今も続いています。
これは歴史に残る災いであり、すべての人々に多くの、人によっては抱えきれないほどの負担となってしまいました。
私は、皆さまに多大な信頼と忍耐を求めてきたことを承知しています。そして現在も引き続きそれを求めています。そのことに対して皆さまに心よりお礼申し上げます。

息つく間もなかったとも言えるこの年の終わりに、今一度、立ち止まって、心に留めておきたいことがあります。
どれほど多くの方々が、最期を看取ることもできないまま愛する人を喪ったのか、私たちには社会の一員として、このことを忘れてはなりません。
私には、皆さまの心の痛みを軽くすることはできません。それでも私は皆さまに心を寄せています。特に今日のこの夕べにも追悼いたします。

性懲りもなくウイルスを軽視したり否定する人たちによって、コロナで愛する人を喪ったり、後遺症と闘わなければならない人々が、どれほど苦い思いを感じなければならないか、私には想像することしかできません。
コロナ陰謀論は、虚妄であるばかりでなく危険です。それらの人々に対して皮肉であり残酷なものです。

2020年は憂いと不安に満ちた年であったと思います。
けれども同時に、多くの事柄が誇張されることなく成長した一年でもありました。
それは、病院や介護施設などにおける医師や介護従事者たちが証明してくれています。それは突然、ウイルスと対峙する本部となった保健所職員においても顕著です。
それはあらゆる場所で支援し続けてくれた連邦軍の熱意に現れています。
また、スーパーマーケットや物資輸送、郵便局内で、また、バスや電車の中、警察署において、学校や幼稚園で、教会で、また編集局で……無数の人々が、パンデミックにもかかわらず、私たちの日常生活を可能にすることに貢献してくれました。
また、ほとんどの人々が、規律を守り、マスクを着用し、社会的距離を保つことに努力を重ねてくださったことに繰り返し感謝の念を抱いています。
他者への配慮や、自分を振り返ること、社会常識を認識するといったことが、私にとって、人に優しい社会での日常がどのようなものかを表しているように感じられました。

何百万の市民の皆さまのこれらの行いが、パンデミックの中にあった私たちの道のりのいくつかを軽減してくれました。それはこれから迎える来年においても必要なものです。

この先、どのような事柄に期待をかけることができるでしょうか。
数日前から、希望の兆しが現れてきました。
それは、最初にワクチン接種を受けた高齢者や介護士、集中治療室で立ち働く医療関係者の上に現れてきました。
私たちのところだけではありません。ヨーロッパのすべての国々や、他の多くの国々においても です。
毎日、多くの人々が、段階的に、他の年齢層の方も他の職種の方々も、すべてのそれを望む人が接種を受けていきます。
私にその順番が回ってくるとき、私も接種を受けます。

科学者にも期待をかけております。世界中の科学者に対してですが、なにより私どもドイツにおける科学者に対して。
初の信頼できるコロナテストはこの地で開発されました。そして今や、ヨーロッパや世界の多くの国々において初の認可の下りたワクチンとなりました。
それはドイツ企業の研究作業の中なら生まれ、現在は独米の共同製作として生産されています。

共同創業者であるマインツのウグル・サヒン氏とエツレム・テュレシ氏は私に、同社では60ヵ国の国籍を持った人々が従事していると説明くださっていました。
ヨーロッパとその他の国々が協力しあうことでの多様性の原動力が進歩をもたらすということを示すこれ以上のものはありません。

パンデミックと直面している私たちの課題は、依然として膨大です。
多くの事業主や従業員、フリーランサーや自営業、アーティストの方々が不安定な毎日を過ごし、存続への不安を抱えています。
連邦政府は、この方々の責任とは言えないこの緊急事態において、この方々を孤立させることはしませんでした。
これまでに前例のないレベルでの国家支援をもって救済に当たっています。
時短勤務規則の改善にも取り組みました。それによって職場の維持が可能となります。

……ということは、新年もコロナのことばかり?
いいえ。昨年においてもそうではありませんでした。
パンデミックが始まった直後から世界が変わったわけでも、急激に根本が覆されたわけでもありません。
ドイツが持てる力のすべてと創造性を駆使して、未来に向けた勇気あるアイデアを育てていくことが、ますます重要です。
私たちの経済や可動性、私たちの生活が環境にやさしいものになることが重要です。
ドイツに暮らすすべての人が、公平な生活環境と真の意味での教育の公平性を受けられることが重要です。
グローバル化され、デジタル化された世界において、ヨーロッパとの関係をより良いものに保っていくことも重要です。

市民の皆さま
これからのしばらくが、私たちの国にとって過酷であることは、嘘偽りのない事実です。
そしてこの状況はしばらく続くことでしょう。
このパンデミックをどのように乗り越えるかは、私たち全員にかかっています。
この冬は依然、厳しい状況が続きます。
私たちは、何をもってウイルスに対抗できるかを知っています。
ワクチンに並ぶ、最も効果的な手段は私たちの手中にあり、それは、私たち一人一人がルールを守っていくことです。私たちの誰もが一同に。

最後にすこし個人的なことを述べさせてください。
9ヵ月後に総選挙を控えていますが、私が再度出馬することはないでしょう。
そのためおそらくこれが、私が首相として皆さまに新年へのご挨拶をすることが許される最後の機会です。

誇張して言うつもりはありませんが、過去15年の間で、昨年ほど私たちの誰もが困難に見舞われるという年はありませんでした。
そして、様々な憂いや心配や人によっては懐疑の念を抱きながらも多くの希望と共に新年を迎えた年というのもありませんでした。

そのことからも2021年の新年にあたり、皆さまと皆さまのご家族に、健康と、心のよりどころと、神のご加護を、心よりお祈り申し上げます。