ハマってしまった本の話題。
ことの始まりは「サンデー毎日」。
戦時下のベルリンに暮らしたユダヤ人や日本人たちについて綴った「いのちのつづき」が「サンデー毎日」に連載されたのは先々月から先月にかけて。
掲載のきっかけは、拙著舞姫本2冊(『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』と『それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影』のこと)刊行の際に、取材くださった毎日新聞記者の棚部秀行氏。
昨秋、日本大使館に救われたユダヤ人の遺族や終戦まで生き延びたユダヤ人ご本人らとの出会いが続いたとき、書きたいイメージは膨らんだものの、調査が同時進行している状態で原稿が書き終わったわけでもなく、しかしながら、ドイツの終戦に合わせて発表したいという思いから、単行本ではなく終戦記念日前後に連載で発表できる場を…と探していたところ、棚部氏が「サンデー毎日」誌にご紹介くださったのだった(この時点では、どんな結末を迎えるのか私にも分からない状態であったから、信頼くださって感謝あるのみ)。
連載が始まるすこし前、ちょうど日本に帰ったのでお礼が言いたくて氏をお訪ねした。
その折に、ベルリン支局の篠田航一氏と面識があるかと訊ねられた。かつてはデスクを並べた仲で、たいへん優秀で、かつ、とても良い人柄とのことだった。
お名前はもちろん存じ上げていたが…偶然言葉を交わしたこともあったが、TPOが一致せずきちんとご挨拶できないままになっていた。
しかし今、サンデー毎日に掲載されるのだから、ここはきちんと、ご報告がてらご挨拶をしておかなければ。そう思ってメールを書いた。
ところが返事が来たのは日本から。帰任なさったとのことだった。
棚部氏と篠田氏のウワサをしていたちょうどそのとき、ご本人は数年の駐在の思い出を胸に日本に帰って行かれたのだ。まったくの入れ違い。ガクッ
しかしここで御縁が切れたわけではなく、実に愉快につながってゆく。
拙著2冊をお読みくださっていたそうで、メールには、「実は六草さんのご著書のような歴史発掘の面白さを私も読者に伝えたいと思い、以前から毎日新聞紙面で 掲載していた「ナチスの財宝」の話を、このたび講談社現代新書から刊行いたしました」と続いていた。
その御本をお送りくださったとも書かれている。
なんだろう、なんだろう~。歴史発掘の面白さを読者に伝える「ナチスの財宝」って…。ソワソワ。
郵便局のストライキも始まり、いったいいつ届くのだ~?? と、待ちきれない思いでアマゾンを覗いてみた。こちら。
ヒトラーが強奪した「消えた宝」を追え!
略奪美術品から読み解くナチスと戦後ドイツの裏歴史。美術館建設の野望を抱いていたヒトラーが、各地で略奪した美術品60万点のうち、現在も未発見のナチス財宝は10万点を数える。
今なおトレジャー・ハンターたちを惹きつけてやまない有名な「琥珀の間」や、悲劇の将軍・ロンメルの財宝など「消えた宝」のゆくえを追う、ベルリン特派員(執筆当時)の毎日新聞記者によるルポルタージュ。
おお…。
ナチスの略奪美術品の話はよく耳にするが、それがどうやって「歴史発掘の面白さを読者に伝える」につながるのだろう??
ハテナが飛び交ったり、「教科書や歴史書には載っていないドイツ史がここに」のフレーズにワクワクしながら、小包の到着を心待ちにした。
ストライキはなかなか収束を見せず長くなった首はとぐろを巻き始めていたが、つい先日、ようやくたどり着いた。
アマゾンには上記の表紙が掲載されていたが、その上に左の表紙に近いほど幅広の帯が掛けてある。
これは…「琥珀の間」では??
ここでやっとアマゾンの商品説明に書いてある「琥珀の間」と、この「琥珀の間」が同じであることを理解する。
これはあの「琥珀の間」ではないか!
私しゃ見たぞ、この「琥珀の間」。サンクトペテルブルクに行ったときにエカテリーナ宮殿で。部屋全体が琥珀っていて豪華絢爛でワワワ…という感じだったが、ガイドがレプリカだと言ったので激怒。
なぜわざわざロシアくんだりまで出かけてニセモノ見なきゃならんのだ!
ちゃぶ台ひっくり返したいくらいの気分になったが、琥珀の間にはちゃぶ台もないし、声を荒げてロシアで逮捕される勇気もなく、すごすごと退散した。しかし密かに根には持っていた。あの「琥珀の間」がレプリカなのは、本物が略奪されてしまったからだったのか…。なあるほどなぁ…。
ここで夕暮れ時となり、夕食の支度が始まり慌ただしくなる。
夕食の後。家族みんなでテレビ放送されている映画を観ていたらCMに入った。家人がトイレに立ったりお茶を入れに行ったりする合い間、ふと本を手に取り、ぱらりとページをめくり、冒頭の「プロローグ」に目を走らせた。
気がつくと、ページは3分の一ほども進み、見渡すと、辺りはひっそり静まり返り、映画どころかテレビはとっくに消えていて、家人もすっかり寝静まる丑三つ時になっていた。あちゃあ、またやってしまった「母不在」。それに目はショボショボ。
しかし。
いや~面白い!
「プロローグ」からいきなりコーフン。あっという間に、篠田ワールドに引きずり込まれていた。
読書でこんなにワクワクしたのは本当に久しぶり。
ナチスの略奪美術品は60万点にものぼり、うち10万点は、今なお行方が分からないそうだ。
本書はサンクトペテルブルクから持ち去られた「琥珀の間」をはじめ、今も隠され存在する可能性のある美術品の行方を追ったもの。ベルリンに留まらず、縦横無尽にヨーロッパを飛び回り、関係者その他に取材し、資料を発掘していく。
読み進めると、「琥珀の間」に魅せられ探し始めた者が次々と謎の死を遂げていったことも明らかになる。拙著のように歴史発掘の面白さを読者に伝えたかったと書いてくださったのは光栄だが、私にはこんな度胸はない。途中で尻尾を巻いて逃げ帰っていただろう。
それに拙著は、前著は「エリーゼは娼婦じゃなかったよ」と、続編では「ふたりは純愛だったよ」という、人の内側に迫ったもので、「丹念に調べ取材する」という作業こそは同じでも、篠田氏の目指すところはスケールが違う。
これは篠田氏にしか成しえない、ハードボイルドを地で行く、まさしく渾身のノンフィクション。
お宝は、『インディ・ジョーンズ』や『ナショナル・トレジャー』など映画の中に埋没しているものだと思っていたが、現実に、それももしかしたら私たちのすぐそばに潜んでいるかもしれない。女性の私が読んでこれだけ楽しめたのだから、男性には手に汗握る白熱の一作だろう。
今日、続きを書いていたら、篠田氏からメールがあった。
なんと重版が決まったそうだ。
発売1カ月にして増刷とは。すごい!!
篠田氏は現在、青森支局勤務。
青森の書店でこのように著書が置かれていたそうだ。
これは嬉しい。…と私が喜ぶのもおかしいが(汗)。
拙著にもこんなポップを貼ってくださった書店があるのだろうか。
羨ましい限りである。
棚部氏からのメールにも、記者間でもおもしろいと評判だと書かれていた。
素晴らしい作品なので是非おススメ。
電子図書として購入可能も、海外在住者の私たちにとって嬉しい。
アマゾン 書籍版はこちら。
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ちなみに棚部氏の連載が毎日新聞で始まった。
棚部氏、なんと出家して(「家出」じゃない。「出家」。仏門に入ること)、タイで修行した。
第一話は「馬の耳にパーリ語」。はっはっは。なんだか想像できちゃうね…。タイからのお坊さん2人を大阪で迎えたところから始まる。
ハートフルで楽しい連載となりそう。
大阪本社版夕刊にて毎月第一木曜に掲載されるそうだ。
次回は来週の木曜日。