ベルリンの壁/空気の橋とロジーネンボンバー

(この記事は2005年3月19日にべるりんねっと789のコラムに掲載された内容を加筆修正したものです)

ベルリンの壁を語るに忘れてならないもののひとつに、「干しぶどう爆撃機」という飛行機がある。

rosinenbomber
「干しぶどう爆撃機/Rosinenbomber/ロジーネンボンバー」とは1948年6月24日から1949年5月12日まで行われたベルリン大封鎖の折、アメリカ軍が「Luftbrücke/ルフト・ブリュッケ/空気の橋」大作戦のために使用した軍用機のことで、戦時中に爆弾を積んでいた軍用機に、食料を始めとする生活物資を積み込んで西ベルリンへ移送し続け、壁で封鎖され物流のすべを失った西ベルリン市民を餓死から救った。
そのときに使用された軍用機のことを、爆弾代わりに、当時のおやつの代名詞である「干しぶどう」を積んでいるという発想から名づけられた。

Rosinenbomber_Milk
(これは牛乳を搭載する様子。西ベルリン市内には畑もないが牧場もなかった)

ベルリン市民は命の恩人であるアメリカ軍への敬意も表し、今でもロジーネンボンバーという名をよく口にする。
ロジーネンボンバーが離発着を繰り返したのは、今は広大な公園となっている旧テンペルホーフ空港。
この空港は当時アメリカ統治地区内にあり、壁の時代はアメリカ軍軍用空港として使われていた。

この「空気の橋大作戦」の記念碑は今も旧テンペルホーフ空港前に聳えている。

IMGP7889

この記念碑は3本の軸が空に向かって湾曲に伸び、途中でプツリと切れた格好だが、これは空気の橋であるから、目に見えない空気のラインは、当時ロジーネンボンバーにベルリン市民のための物資を詰め込んだ場所(空港)へ向けて伸びている。

IMGP7903
(足元には碑が刻まれている)
一般的に知られているのはフランクフルト空港だが、そのほかにも何ヵ所かあり、ヴィースバーデンの空港からの離発着も多く、その他、燃料になる炭などの供給には、リューベックやツェレ、ファスベルク、ヴンストルフなどの空港も使用されたそうだ。
現在はベルリンから伸びた「空気の橋」の先として、フランクフルト空港とヴィースバーデン空港に同様の記念碑が置かれ、記念碑同士が空気で結ばれた格好になっている。

ちなみに、なんにでもあだ名を付けたがるベルリンっ子は、この空気の橋のことを「Hungerkralle/飢餓の爪」や「Hungerharke/飢えた熊手」などと呼んでいる。
実際に当時飢えていたのだから等身大の命名ともいえる。

空気の橋大作戦は、実際には英国軍もガトウやハーフェルの空港でも行っているので、連合軍の偉業と言うべきところが、アメリカ軍の移送量が桁外れに多かったことからアメリカ軍ばかりが褒め称えられ、ちょっと申し訳ない感じがするが…ロジーネンボンバーがベルリン市民のために運んだ物資は述べ158万トン以上と言われ、延べ 195.530 回にも上るその空輸の折に飛行機事故も発生し、アメリカ人31人、イギリス人39人、ドイツ人6人が偉業の陰で命を落としているそうだ。

ちなみにこの写真を撮った日は、とても晴れていて、「空気の橋」の向こう側に空気雲を引きながら2機の飛行機が飛んでいた。

IMGP7894
(拡大すると見えるかな…??)

 

IMGP7945
今は閉鎖されたテンペルホーフ空港のメインホール。

 

IMGP7948
赤い車に近寄ると、お…カワイイ~。

 

ついでに空港内にも入ってみた。
訪ねたのは2008年10月。テンペルホーフ空港が幕を閉じる一週間前。

IMGP7968
建物に入ってすぐの空間。

 

IMGP7971
左手にあるインビス(軽食スタンド)。
懐かしい~

IMGP7982
ホールに入ったところからの景色。
IMGP7984

IMGP7979
目の前のミニエスカレーターかその両側の階段で下のフロアに降りる。
このホールひとつだけですべてがまかなわれていた。
小さいが機能的で高い評価を受けていた。
しかしながらこの空港、典型的なナチ建築。

 

IMGP8023
降りたところから見上げた景色。

 

IMGP8042
預けた荷物が出てくるベルト台。
…そう。外来者も出入りするフロアに置かれているのだ。
スーツケースを盗まれるなんてことを考えなかった古き良き時代の産物。

 

IMGP8067
この日も旅客機の離発着はおこなわれていた。

 

IMGP8053
搭乗客たち。

 

KIF_0111
しかしカメラを手にした人もやたら多い。
1週間後にはクローズというので、写真を撮りに来たのは私に限らず…。

 

IMGP8049
娘たちもこの空港からよく、キッズサービスを使って、おじいちゃんおばあちゃんのところに遊びに行ったものだった。

 

KIF_0032
KIF_0050
二階からの眺め。
懐かしい…メインの空港はテーゲルのあるが、ヨーロッパ間の便はここの離発着も結構あった。
これまで家族や親せきや友人たち、何度迎えに行ったり見送りに行ったりしたことか。

 

IMGP8086
この日はテラスに出ることもできた。
遠くにテレビ塔が見える。

 

KIF_0137
そんなわけであれこれ見物して外に出ると夕方の空だった。

 

追伸:

KIF_0136

 

昔はテンペルホーフ空港内にロジーネンボンバー機が展示されていたが、現在は看板のみ。
現物はツェーレンドルフ区の連合博物館(AlliiertenMuseum, Clayallee 135, 14195 Berlin)に置かれている。