手づくりバター

昨秋だったか、今春だったか日本に帰省したとき、どこのスーパーでもバターが売り切れで、驚きもしたし、たいへん困った。日本の乳牛になにかあったのか??
牛乳は溢れるほど並んでいるのにバターはないって…どゆこと?? と、思ったものだが、あの問題はいまだに解決していないようで、「なぜ『バター不足』が繰り返されるのか」なる見出しの記事が掲載されていた。
それは牛の問題ではなく日本経済の問題、税法によるものらしい。

しかししかし、バターは自宅で、いとも簡単に作ることができる!
…と聞いたのは先日のこと。
とあるパーティーで知り合った日本女性。
ご職業は? とお訊ねしたら、「昔はハイジをやっていました」と。
ハイジをする…それは幸せそうに、両手を広げながら、裸足で草原を駆け抜けることではないのか? それが職業なのか?!
と、(?。?)ハテナ顔になっていたら、スイスの山で牛を飼っていたと。
放牧させたり牛の身体のケアをしたりといったことのほか、乳しぼりもするし、チーズも作ったというのだ。あの両手で抱えなければ持てないほど巨大なチーズをひと夏で何十個も! 女手ひとつで!
これはすごい・・・と、ハイジの日常についてあれこれ聞きながら、チーズの作り方も聴き、私には絶対無理だわ…と感嘆しきりでいると、カマンベールは自宅で簡単に作れると。
聞いてなるほど簡単そうだったが、毎日観察して、黒いカビが出てきたら削り取るそうで、仕事の状態によっては仮眠生活もある私には、毎日手入れは無理だ…と、聞いただけで諦めたところ、バターなら10分で作れるとのご啓示が!
なっ、なっ、なにっ。
自家製バターが10分で作れる?!!!
大いに反応して耳の穴をかっぽじって拝聴。
生クリームをボウルに入れ、泡立てる。ホイップになってもまだまだ泡立てているとバターの出来上がり。
「それだけ?」
「それだけ」
…という訳で、嘘か本当か実際に作ってみたら本当だった。
これが美味しいんだ。
そこに今日の記事。
バター問題が未だに解決していないなら、パンの上にはマーガリンではなくバター! と思っていらっしゃるグルメのかたにお届けしましょう。バターの作り方!

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まずはボウルに生クリーム(ドイツではSchlagsahne/シュラーク・ザーネと言う)を入れる。
今回はスーパーでよく見かける250g入りのカップの2個分、500gでチャレンジ。

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泡だて器でジャワジャワ泡立て。
そのうち、ホイップ状になってはくるが、クリームの飛沫が飛ぶわ飛ぶわ。
周りは白い点々だらけ、髪の毛にまでクリームの粒が付着しているのが視野の際に見える。
撮影用にと思って我慢していたが、これでは、作るのは10分でも後片付けに1時間~となってしまう。
そこで愛用の飛沫防止カバーを取り付ける。

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快適、快適~。
ジャワジャワいっているが、数分後には「あ、ホイップクリーム出来上がりだ」という手ごたえを感じる。
覗いてみると…。

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おお。美味しそう~。
いつもなら、ヴァニラシュガーを入れているからほんのり甘くて、そのままでも美味しいが、これは単なる「冷たいマッシュ」。
さ、ここからがバターへの道。
さらにジャワジャワ泡立て続ける。
カバーの向こうに、なんだか引っかかるものを感じる。
覗いてみると…

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おお…。分離している。
引き続き泡だて続行。
泡立て器から響いてくる「もったり感」が、「空回り感」に変わり、覗くとこんな感じ。

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粒々の部分がバター色している!
これで泡立て完了。

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キッチンペーパーの上に、モコモコしたものだけを乗せる。
軽く形を整えて、重さを量ってみた。

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正味192グラム。
このスケールはお皿など対象外となるものは事前に量り、ゼロにしてから正味を量ってくれる。
500gの生クリームがこの時点で、半分以下に。
キッチンペーパーでグイグイ押して水を出しながら形を整え「自家製バター」の完成~。

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500グラムの生クリームから、154グラムのバターが。
片付けもふくめて、実に30分以内で、自家製バターが我が家の冷蔵庫に。

そして夕食どきに家族に披露。
そうしたら大絶賛!
その日はパンが副食だったわけではなかったが、みんなパンについつい手が伸び、「これは美味しい」と舌鼓。
娘は作り方を根掘り葉掘り聞き出そうとする。
彼女も今度は自分で作るつもりなのだな。
生クリームをホイップしただけというのが信じられない様子。

今回使用したのは、初体験ということもあり、ちょっと張り込んでヴァインシュテファンの生クリーム。

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(右側のお徳用500gが今回のバターに。左のものは間違って買った。その顛末は下方に)
ヴァインシュテファン社の物を迷わず選んだのは、ドイツに生活してウン十年、ベルリンにもヴァインシュテファンの乳製品が入るようになり、売り出しをしていた日に遭遇したので牛乳を買ってみて、初めて飲んだとき、「これは美味しい~!!」と、感動の白鳴門になったから。
この生クリームならきっと美味しいバターになるだろう~と。

0730_21じつは、日ごろは慎ましい生活を送る我が家だが(なにせ夫はけちんぼDNAをしっかり受け継いだドイツ人だから~)、バターにはこだわりがあり、アイルランドのバター、「ケリーゴールド」を買っている。理由はふたつ。風味が良いことと、柔らかいこと。
ドイツは、20年ほど前までは「冬の国であったから、バターは冷蔵庫に入れて保管しなかった。食器棚や食糧庫など、暗所に置いていた。
私が住みはじめた頃はそういった家庭も多く、姑などは、ふたの内側にバターを擦り付け、本体は蓋の一回り大きく、そこに水を張って蓋をすると、バターは水に触れずに、冷たい空気の中に密封されるという陶器のバターケースを愛用していた。
だからバターはいつ取り出しても柔らかかった。
けれども毎年徐々に温暖化が進み、今や扇風機が必需品になったドイツ(30度を超える日もざらにある昨今、そのうちクーラーも普及するのだろうな)、バターの保管事情も変わり冷蔵庫内に置かれることに。
するとどうしても硬いのだ。
しかし、アイリッシュバターは純正バターなのに冷蔵庫から出したばかりでも柔らかい。
ドイツ製も日本のものほど硬くはないが、アイリッシュバターを一度体験するとやめられない。
そしてトーストの上に乗せた暁には、バターの優しさが香り立つ~。もう止まらない~。
…そんなわけで、今回、せっかく作ったバターがアイリッシュバターより見劣りしたら、家族はそっぽを向いてしまう。なので張り込んでヴァインシュテファンの生クリームに。
ケリーゴールドと自家製バターを比べてみると、こんな感じ。

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ケリーゴールドのほうが若干、黄色が優っている。
食べた風味は、自家製バターは、ふっわふわだし、「自家製」という響きもあるし、なにより、作りたてのほやほやだったから、自家製のダンゼン勝~! だった。
しかし経済的なことを考えると、ヴァインシュテファンの生クリームは250gパックで1,29ユーロほどのところ、お徳用パック500g入りで 1,99ユーロ支払い、できたのは154グラム。
ケリーゴールドは250グラムが近所のスーパーで1,69ユーロ。
ということは、フンパツして買っているケリーゴールド(ドイツのバターは1,19ユーロくらい??)よりもずっと高いバターということになる。
スーパーで一般的に売られている生クリームは250gパックで49セント。
これならリーズナブルに作ることができるが、お味のほうはどうだろう。次回試してみよう~。
日本のスーパーで一般的に売られているバターは、鬼のカタキ? というくらい硬いが、生クリームからなら、夢のようなふわふわバターが出来上がる。日本の税法で悩むより、10分で解決だし、是非おススメ。
泡だて器を使わず作る方法というのもネットにあった。
ペットボトルに生クリームを入れて、ひたすら振るとできるらしい。
しかし、中でバターが出来上がったら、ペットボトルの胴体をハサミで切って取り出すことになるので、ボトルがデポジット制のドイツではご注意を。事前に支払った25セントが返ってこなくなる。また、それでもいいから~とペットボトルを使用する際には、ハサミで切れる薄いボトルを使いましょうね。ドイツは分厚いボトルも多く、そこでバター作っちゃったら、ボトルをのこぎりで切らなければならなくなり、それこそプラスティック片混入疑惑のリコール対象品ができてしまう。
ちなみに、ボウルに残った液体はバターミルク/Buttermilch/ブッター・ミルヒ。

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500gの生クリームの半分以上はバターミルクになるのだな。
これはクッキーやビスケットを焼くときにミルクの代わりに使うと、ふわふわに美味しくなるそうだ。
ほかにも使い方はいろいろあるようだ。
ビタミン豊富の善きものなので、捨てないように~。
あ、そうそう、途中から使った飛沫防止カバー。

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バターができあがる頃には、カバー使わず泡立ててたら今頃は…と、いうほどビショビショ。

この飛沫防止カバー、ドイツ語でSpritzschutz/シュプリッツ・シュッツ

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私はデパートで買ったが、アマゾンでも売っている。
ケーキが焼けるのは味噌汁作れるくらい大切なお国柄ドイツ。
最近では娘もケーキを焼くことが多く、我が家では大活躍の品。
まだお持ちでない方は是非お試しを。キッチンにおける世界観、変わりますよ~。
そうそう、ひとつ注意事項。
先ほどの2種のクリーム。

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右のはホイップ用で乳脂肪32%。
今回はバターを作るのだから脂肪分が多いほうが善いだろうと、左の「50%」のも買ってみた。
„Zum Kochen“料理用と書いてあるのを、ホイップするには脂肪分が高すぎると解釈したのだ。
…ようするに、小さい文字を読まずに、「高かろう善かろう」精神で買ったわけだ。
しかしこれ、バターはおろか、ホイップクリームにもならなかった。
おかしいな・・・と思いながらパッケージの絵柄を改めて見ると、右のパッケージのようにホイップされていない。
そこで小さい文字も読んでみたら、「ホイップ用生クリームよりも乳脂肪が50%すくない」と書いてあった。
「50%」の前に付いているのは「マイナス」の記号だったわけだ。
ようするに、この生クリームは脂肪分16%で、ホイップはできないということだ。
なるほどねえ~(涙)
というわけで、無駄にかき回した生クリーム。翌日のメニューは、スパゲッティ・カルボナーラに使われたのだった。

追伸
その1:
今回バターを作ってみてつくづく思ったのだが…これまで生クリームを乗せた美味しいケーキを優雅に頂いていたつもりだったが…あれ、脂を乗せて食べていたわけだな。
昔は我が家のマヨネーズは常に自家製だったのだが、マヨネーズは、卵の黄身にサラダ油を落としながら泡立てる…つまりサラダ油をクリーム状に固めたもの。
白くてトロリとしていて美しくまた美味しいけれど、掛ければ掛けるほど、油を食べていることになるのよね。
バターの代わりにマーガリンをパンに塗って「我慢している」人がいる。なぜ?と理由を聞いたら、マーガリンのほうがヘルシーだからと答える人がけっこう多い。
しかし、バターが動物性なのに対し、マーガリンは植物性。脂か油かの違いだけでカロリーは同じ。動物愛護か何かの精神で、動物性食品を避けたいというのであれば、マーガリンは代用品に相応しいが、バター風味のものを選んでまでマーガリンで我慢しても、バターより「ヘルシー」なわけではない。だったらいっそのこと、美味しいバターを選んだ方が、心はよっぽどヘルシーな気がする。

その2
手作りバターを作った二日後、パンに塗ろうと思ったが、冷蔵庫を探しても見当たらない。あまりの美味しさに、娘たちがおやつの時間に、トーストパンに塗って食べてしまったらしい。